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第3回 建学の精神と教育理念、生徒・学生とどのように歩むか

 2012年4月から大塩武学院長を筆頭に、秋岡陽大学 学長、田部井善郎中学校・高等学校 校長の新体制がスタートしたフェリス女学院。この3氏に、学院の使命と目差すべき姿について語っていただきました。(2012年6月)

大塩 フェリス女学院は、日本で初めての女子教育機関として創立され、今年で142年を迎えました。この4月から秋岡先生には大学長にご就任いただきました。おめでとうございます。まずはこれから大学長という立場でどんなことを実現していこうとお考えなのか、抱負をお聞かせいただけますか。次いで、中高校長の田部井先生にもお願いします。
秋岡 キリスト教の信仰に基づく女子教育という建学の精神と、For Othersという教育理念、フェリス女学院はこの2つを明確に掲げ、それらをずっと育ててきています。大学としてもその流れをどのように良い形で引き継いでいくかが重要になると思います。フェリス女学院として日本の中で与えられた使命をどう果たしていくかが問われるなか、ひとつの学院の中の大学であるという立場をはっきりさせていきたいと思っています。
田部井 私も大学と中高はそれぞれ役割がありますが、同じ「キリスト教信仰に基づく女子教育」のもとにあるひとつの学院と、いつも考えています。
 誇るべきは140余年という長さではなく、その間変わることなくフェリス女学院としての役割を担ってきたことです。150周年に向かってそれをさらにどういう形で具体化し、どう社会に発信すればよいのか、互いに知恵を出し合って考えていくことがこれからの課題です。
大塩 もう少し具体的に踏み込んでいきますと、中高、大学それぞれの立場に則した教育というものがあると思いますがどうでしょうか。
秋岡 中高と大学では生徒、学生の年齢が違いますので、彼女たちが本当に必要としているもの、それに対して教育が応えられるものは違ってくるだろうと思います。そういう意味では、大学は卒業後の社会での活躍を意識した大学なりの取り組みをしたいと思っています。
田部井 12歳から18歳までの中高時代は、心身ともに最も成長する時期です。そこで大切なことは、将来の基盤となるキリスト教信仰に基づく生き方を形成することです。それをフェリス女学院らしい教育を通して育むことが、今まで以上に求められてくると思います。

建学の精神のもとに実現するAll Ferris

大塩 就任以来、私は中高と大学からなるフェリス女学院の一体感を醸成するという観点から、All Ferrisを唱えてまいりました。と言いましても中高、大学それぞれの教育内容も違いますし、また社会との接点も違ってきますから、いつも手を繋いでいることが望ましいというわけでは必ずしもない。All Ferrisを実現していくために一番大切なのは、やはり建学の精神であるキリスト教の信仰に基づく女子教育、これを徹底していくことだと思います。しかし、大学には徹底しにくい側面が確かにあります。号令をかけて全ての構成員がそれに従っていくということもできませんし、中高の場合以上に宗教に対する個々人の考え方の違いもあるかもしれません。その中でキリスト教の信仰をどのように学生生活の中で深めていくか、秋岡先生の考えをお聞かせいただけますか?
秋岡 日々の生活の中、たとえば教職員と接するときや課外活動といったところで、キリスト教精神が培ってきたものを示すことはできると思っています。ただしその出会いをどう受け入れていくかは、それぞれの学生たちに任されるところでしょう。ただ学校の拠って立つ中心が聖書、御言葉であって、何かのときには必ずそこに立ち戻るという姿勢を崩さないことが、大学としてキリスト教主義を守っていく重要な点だと思っています。実際、宗教センターの「インド国際ワークキャンプ」、ボランティアセンターの「日・韓・在日学生平和協働プログラム」などキリスト教的な視点からの活動も盛んに行われてきました。それからフェリスの場合には「賛美する」という意味での音楽活動が非常に盛んで、これもキリスト教のこれからの伝統を育むものとして大切にしていくべき点であると思っています。
大塩 私はこのフェリス女学院に来て大学の様子を見たときに、他大学にはないフェリス女学院大学の独自性という観点からすれば、やはり音楽学部が重要な役割を果たすべきであろうと思いました。一方、中高で初めて生徒たちの歌う校歌を聴いたときの感激ですね、あれはちょっと忘れられない。やはり、音楽が建学の精神を形にするだけでなくAll Ferrisを実現するひとつのモメントになると思いました。そんなこともあってこの度、中高と大学それぞれから協力を得て校歌CD制作プロジェクトを企画しましたが、これもAll Ferris構想の一環としてご理解いただければ幸いです。
 中高の場合は、建学の精神についてはいかがでしょうか?
田部井 「信仰の種蒔き」、それが建学の精神の継承であり、中高の使命だと思います。中高の一日は、毎朝全員で守る礼拝から始まりますが、その中で知らず知らずのうちに生徒たちは神様との出会いを経験しています。たとえ在学中にはそのことに気がつかなくても、いつか必ずわかってくれると思っています。そうしたきっかけをつくり続けることが私たちに託されていることだと受け止めています。
 またこれはいつも考えていることなのですが、「キリスト教学校」は「キリスト教」と「教育」というある意味矛盾したものを抱えているのではということです。たとえば、キリスト教は人間の有限性の自覚を問い、一方、教育は無限の可能性に期待するように、です。しかし実はその緊張関係が大切で、強ければ強いほどそこから生まれてくるものも、またそこで学んだ学生・生徒たちが社会に対して発信するものも大きくなると思うのです。
大塩 それはキリスト教の信仰を大切にしながら教育を行っていくという難しさでもあるし、また腕の見せ所でもあるわけで、ここをよく心得ておくことが私たちにとって大切であると思いますね。

フェリスのグランドデザイン

大塩 話は少し変わりまして、フェリス女学院のグランドデザインについてお聞かせいただければと思います。学院の5年後、十年後を見据えた設計図ですが、今年からいよいよ策定の作業に入っていますね。秋岡先生は就任早々ですが、いかがでしょうか?
秋岡 昨年は大きな震災がありましたが、大学に求められているものとは何なのかということを、改めて考え直させられるきっかけになったと思うんですね。日本の教育の歴史において、戦前は国のための勉強があり、戦後になると企業や経済のために勉強をする人たちが増えた。しかし震災後の今、経済のための勉強が本当に一番大事なのか、と。地球環境や、人間の生活そのものを新しく考え直さなくてはならない。私たちのグランドデザインにもそれを反映する要素が入ってくるべきだと考えています。
大塩 ではこれからの時代、女子大の果たす役割とは具体的に何でしょうか?
秋岡 これからは、地に足の着いた生活の視点からの問題意識と、それに対する解決が求められる時代だろうと思います。そういった問題意識に繊細な感性を発揮できる人が女性に多いのは確かですので、共学の学校にはない役割を担えるのではないでしょうか。特に原発事故以降は環境問題が注目されていますが、フェリスはエコキャンパス・プロジェクト(※1)などが評価されて2009年「エコ大学ランキング」私立大学部門第1位に選ばれているんです。これはまさに今社会から求められていることのひとつですので、さらに新しい方向に持っていけたらと思っています。
大塩 楽しみですね、期待しています。一方で中高の場合は社会との接点が大学とはまた違ってきますが、いかがですか。
田部井 フェリス女学院は"私学の中の私学"であるという思いがあります。信仰というきわめて個人の内面的なものを大事にしている学校というのは、国家や社会という前に、まず人間性を学んでいくといいますか。それができるのが私学だと私は思っているんですね。ですから、グランドデザインとして将来どんな教育をするのかと問われれば、なおいっそう私学らしい私学にしたいと、そう答えますね。それは、1人1人の心にあることを大事にしながら、時代の先を見据えて新しいものを生み出し、For Othersがあまねく広がる社会をつくっていくということです。具体的には2号館や体育館の建設計画がありますが、フェリスで学んでいるということを感じられる日常生活の場をつくることも使命だと感じています。

For Othersを社会との架け橋に

大塩 今お2人のお話を伺って感じたのは、やはりフェリス女学院が社会とどうかかわっていくかが大切だということですね。そのとき社会との関係をつくっていく媒介となるのはやはり教育理念For Othersだと思います。
秋岡 具体的な話ですけれども、フェリス女学院大学はGP(※2)を同時に3つも採択しているんですね。その背景には、やはりFor Othersの考え方があると思います。地域の子供たちとの交流や環境活動などを通して社会との関係を築こうという発想があり、実践も重ねてきた。これはどんどん続けていきたいですね。
田部井 中高の場合は、より日常生活の中でFor Othersを感じているのではないかと思います。そして卒業する時に生徒1人1人が「もしかしてこれがFor Othersだったのかな」と感じて、その後の人生で自分なりに考えたり、何か行動に移したりする。そういうことがあれば、学校としては大きな役割を果たせていると思うんです。キリスト教で理解しているFor Othersというのは、その人の一生を支えていくものですから。
大塩 建学の精神と教育理念が混ざって議論されることが多い中で、フェリスのように建学の精神はキリスト教の信仰に基づく教育、教育理念はFor Others、ときちんと分けて打ち出している学校は、実は少ないと思います。それは「フェリスに来ればこういうことが勉強できますよ、こういう人間になれますよ」とはっきり言えるということで、大変ありがたいことですね。私はこれからもこの2つを大切にしていきたいと考えています。

2012年1月から3月にかけて、校歌CD制作のための収録が行われた。写真は中高全校生徒によるカイパー記念講堂での収録風景。

フェリス女学院大学緑園キャンパス。図書館や体育館などが整備された機能的なキャンパスは、環境に配慮したエコ・キャンパス化も進められている。

学院長 大塩 武(おおしお たけし)

学院長 大塩 武(おおしお たけし)
1943年生まれ。早稲田大学商学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科博士課程最終単位取得。商学博士(早稲田大学)。明治学院大学経済学部教授在職中に、ハーバード大学ライシャワー日本研究所に特別研究員(Visiting Scholar)として1年間滞在。明治学院大学では、情報センター長、教務部長、入試センター長、経済学部長、学長を歴任。社会経済史学会評議員、経営史学会幹事、編集委員、評議員、理事を歴任。著書:単著『日窒コンツェルンの研究』(1989年、日本経済評論社)、麻島昭一と共著『昭和電工成立史の研究』(1997年、日本経済評論社)、ほか多数。

中学校・高等学校長 田部井 善郎(たべい よしろう)

中学校・高等学校長
田部井 善郎
(たべい よしろう)
1949年生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業、同大学文学部哲学科倫理学専攻卒業。同大学大学院文学研究科哲学専攻倫理学修士課程修了。専門は英米倫理学、キリスト教倫理学。ルーテル神学大学(現ルーテル学院大学)非常勤講師などを経て本校社会科専任教員。教務主任、教頭、副校長を経て2007年より現職。

大学長 秋岡 陽 (あきおか よう)

大学長 秋岡 陽(あきおか よう)
1954年生まれ。国際基督教大学卒業、シカゴ大学大学院修士課程修了。本学音楽学部教授、大学情報センター長を歴任、2012年度から大学長。専門は音楽学。著書に『自分の歌をさがす――西洋の音楽と日本の歌』(フェリスブックス)、共訳に『20世紀の音楽』(東海大学出版会)など。キリスト教音楽・賛美歌学に関する著作多数。

※1
エコキャンパス研究会が中心となり、主に緑園キャンパスで環境問題取組活動を展開。夏休みには小学生対象の「親子講座」を開催するなど地域貢献にも力を注ぐ。

※2
文部科学省の大学教育改革の一環として、大学等が行う教育改革の中から優れた取組(Good Practice)を選び、支援するプログラムのこと。2005年度、フェリス女学院大学の「読書運動プロジェクト」が「特色GP(特色ある大学教育支援プログラム)」に、「エコキャンパス・プロジェクト」「若い女性の視点からの音楽コンテンツ創造」が「現代GP(現代的教育ニーズ取組支援プログラム)」に採択された。

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