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音楽で祝うクリスマス

 中高では全校生徒が守る礼拝、大学は音楽学部を中心とする演奏会まで時間をかけて練習を重ね、美しいハーモニーでクリスマスを迎えます。
 合唱曲というかたちで祝うことのできる喜びは、学生、生徒にとって特別な記憶として刻まれます。

【中学・高校】
歌声は伝統の受け渡し

 コロナ禍の影響を受けて、キリスト教学校が頭を痛める最大の課題のひとつは礼拝であり、特に讃美歌を今までどおりに歌えないことだと言えます。礼拝における賛美は、特にプロテスタントの学校礼拝においては会衆(礼拝出席者)が能動的に神にささげるほぼ唯一にして最大のものだからです。
 フェリス中高のクリスマス礼拝においては、讃美歌と共に多くの全校合唱が盛り込まれていることが最大の特徴です。狭義の讃美歌だけでなく、神をたたえる言葉を美しい(また力強い)メロディーとハーモニーに乗せた合唱曲は、イエス・キリストの降誕の意味を告げる聖書の朗読やメッセージと共に、クリスマスの喜びを味わい、心に刻みつける大切な要素だと言えます。

 例年9月になると毎週金曜日の朝、Hallelujahコーラスの歌声がカイパー記念講堂に流れ始めます。ハレルヤと言えばイエス・キリストの生涯を描いた「メサイア」の1曲ですから、クリスマスに演奏されることが多く、残暑の中に響く蝉の声とハレルヤの歌声は、いかにも季節外れ?とも思われますが、これがフェリスの9月の風物詩と言うことができます。現在はコロナ感染症対策の関係で例年どおりの合唱は行えませんが、クリスマス礼拝ではHändel作曲Hallelujahの他、Malotte作曲The Lord‘s Prayer、年替わりの合唱曲1曲(メサイアから「Glory to God」「And the Glory of the Lord」「For unto us a Child is born」、Rossini作曲の3つの聖歌から「Carita愛」、Mendelssohn作曲の「Laudate pueriいざ主を誉めまつれ」のいずれか)の合計3曲を全校で歌います。加えてJ3以上の生徒はAdam作曲のO Holy Nightを歌うのが伝統となっていますので、これらの練習をクリスマスまでに完成させるには、決して9月は早すぎ…ではないのです。毎週金曜日は短めの礼拝の後、15分ほど讃美歌練習を行うのも伝統であり、リズムやハーモニーが複雑で礼拝時に上手に歌えなかった讃美歌や、歌う機会の少ない美しい讃美歌を音楽科の教員が選び指導します。生徒達の歌は短時間にどんどん変化し、最初と最後では別人の演奏と思われるほどの変化を見せてくれます。パイプオルガンの伴奏と共に、全校生徒が各パートに分かれて歌う讃美歌がカイパー記念講堂に響く時、そこには天国と見紛う空間が生まれます。週の終わりに、この時間を持つことができるのはフェリス生の幸いの一つだと思います。この15分ほどが9月以降はクリスマス合唱の練習時間となり、音楽の授業でも補いつつ12月のクリスマス礼拝を迎えるのです。ピアノ伴奏はS2生徒、オルガン伴奏はオルガニストが担当します。12月に入ると、期末試験の最終日に生徒達と伴奏合わせと練習の時間があり、金曜日のHRの時間に全校での仕上げ練習を行い、クリスマス礼拝当日に備えます。
 クリスマス礼拝の全校合唱や讃美歌練習については、1893年のRCA報告書からうかがい知ることができます。時には、生徒たちのオーケストラの伴奏で行っていた時期もあります。卒業生、在校生には「ハレルヤの最後の休符で歌声が消えブレスを取る瞬間、確かに神の存在を感じた」と言う方が少なくありません。Magicと同じ語源を持つと言われる音楽が、百の言葉を超える力を持つという現れでしょう。フェリスが音楽を大切にし、全校合唱を長く続けてきた伝統は、こうした神への思いだったのではないでしょうか。
 先に述べましたとおり、コロナ禍では合唱がままなりません。しかし昨年のクリスマス礼拝は4回に分けて行い、入場人数を抑え換気を十分に行ったうえで、Hallelujahのみを歌いました。説教者の先生も司式の先生も指揮者や伴奏者も、4回同じ礼拝を行うのは容易なことではありませんでしたが、伝統の一部を守り続けたいという熱い思いの表れだったと思います。マスクをしたまま、生徒達も嬉しそうに、精一杯、生き生きと讃美の歌声をあげていました。
 151年目の歩みを続けるフェリスは、コロナ禍でも神への熱い思いを持ち続け、生徒にその伝統を受け渡していく役割を果たして行きたいと思います。
※フェリス女学院では、中学校の生徒をJ、高等学校の生徒をSと呼称・記載しています。

【大学】
音楽学部の「メサイア」演奏会

 ヘンデルの「メサイア」は、イエス・キリストの生涯を描いたオラトリオ(聖譚曲)のひとつです。3部構成のうち2部のラストを飾る「ハレルヤ」は特に有名です。フェリスでは、クリスマスの時期に音楽学部の「メサイア」演奏会を開催しています。*1
 大学音楽学部演奏学科教授の蔵田雅之先生は、学生時代に短期大学音楽科でのリハーサルに参加された経験があります。
 「男声合唱のエキストラとして、リハーサルだけですが、一度参加したことがあります。不思議なご縁で、フェリスで教鞭を取るようになり、教員としてメサイア演奏会を指導するようになりました。「メサイア」の舞台に立つのは、今年は合唱ⅡBとⅢBの履修者です。音楽学部専門科目ですが、他学部からの参加も可能です。この科目の最終目標がお客様の前での演奏なのです。」
 ヘンデルは、1685年にドイツのブランデンブルグ=プロイセン領ザーレ河畔のハレに生まれました。同年のほぼ同じ頃、さらにヘンデルが生まれた場所と同じドイツ中部アイゼナハで生まれたのが「音楽の父」と言われるJ・S・バッハです。
 「バッハは生涯をドイツで過ごしましたが、対照的にヘンデルは今の時代の言葉で言えば『コスモポリタン』でした。20歳を過ぎると、ドイツを離れ、イタリアで作曲を勉強し、その後はイギリス・ロンドンに居を構え、イタリア語で作ったオペラを大成功させます。ドイツ人であるヘンデルが、母国語ではないイタリア語で書いたオペラを、ロンドンで大流行させたというところにコスモポリタンたる所以があります。
 国境をどんどん越え、いくつもの言葉を操り、自分の音楽を世界に知らしめたいという気持ちが強かったのではないかと思います。」

フェリス生がメサイアを演奏する意義

 「ヘンデルは1741年アイルランドのダブリンでの慈善演奏会*2 のために、メサイアを作曲しました。この大曲をなんとたった24日間(1741年8月22日から9月14日)で書き上げています。当時は健康状態も害していたとされています。失意の底から脱却したいという思いもあったでしょう。授業の導入では必ず時間を取ってこういう話をします。
 バッハが重厚な神への音楽だとすると、イタリアで学んだヘンデルの描いた世界には光が差し込むようなきらびやかさ、華やかさがあります。バッハの音楽も踏まえた上でこの大作に挑戦することは、学生にとって非常に価値ある体験です。
 メサイアとは「メシア」の英語読み、「救世主」という意味です。歌詞のうち『Emmanuel: God with usインマニエル=神われとともいらっしゃいます』*3のところでは「インマニエル・イエス・キリスト」がイエス様の正式名称と説明します。
 授業では歌詞の意味を詳細に解説するほか、秋岡前学長に聖書におけるメサイアの位置づけやジェネンズ*4 の台本の価値について演奏会前に講義いただいています。英語英米文学科の冨樫剛先生にディクション(発音法)の細部をご指導いただいたこともあります。学生たちがキリスト教に根差した教育を体験する一人になれることが、最も大きな価値だと考えています。例えば「彼の軛(くびき)は担いやすく、彼の荷は軽い。」*5の意味を深くわかりながら歌うのと、音符をみて「だいたいこんな感じなんだろう」というのでは全然違います。
 メサイアにメシアであるイエス様の生誕を祝う部分が含まれるので、フェリスがクリスマスに演奏することに価値があります。お客様の華やいだ独特の雰囲気が感じられのもこの時期だからこそでしょう。
 クリスマスの季節は、元町全体もイルミネーションで華やかになります。メサイア演奏後に、あの中に戻っていくというのは最高のクリスマス体験なのだという学生が多くいます。我々のメシアであるイエス様の降誕を、キリスト教の信仰に基づく母校で歌ったという経験は、必ずや学生のみなさん一人ひとりの心の中に残っていくことでしょう。」

*1 初回は1980年12月。2回目以降2010年度までは3月(受難節)に実施。2001〜2014年度は毎年、2015年度以降は「フェリス・クリスマス・コンサート」と「メサイア」演奏会を隔年で開催。2020年度は第27回が予定されていたが、コロナ禍により「メサイア」演奏会は延期となった。

*2 アイルランドのダブリンの慈善団体「フィルハーモニー協会」主催の慈善興行
*3 イザヤ書第7章14節、マタイ第1章23節
*4 チャールズ・ジェネンズ (1700-1773)「メサイア」の台本作家として知られる。
*5 マタイ第11章30節

学生による合唱(2018年12月22日開催「《メサイア》演奏会」より)

蔵田雅之先生(テノール独唱)
(2018年12月22日開催「《メサイア》演奏会」より)

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