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第1回 地球温暖化によって沈みつつあるキリバス共和国への国際支援

 フェリス女学院大学の公認サークル「エコキャンパス研究会」は、2008年から、太平洋の真ん中にある発展途上国キリバスの抱える環境・社会問題などを調査し、日本の国際協力のあり方を模索するとともに、社会的弱者の立場に寄り添いながら、解決策を探っている。フェリス女学院の教育理念For Othersは地球環境問題にも直結しており、国際的な環境マインドを身につけることを目標としている。その具体的な活動内容を佐藤准教授(執筆当時)がレポートする。(2012年6月)

なぜキリバス共和国での活動なのか?

 2006年、フェリス女学院大学が主催した国際環境シンポジウム「最近の異常気象のゆくえ、沈む島々〜止められないのか地球温暖化〜」で、南太平洋諸国の政府機関のコイン・エトゥアティ氏(キリバス出身 ※下記コラム「キリバス共和国とは?」参照)から「地球温暖化による海面上昇に起因する高潮の被害状況」に関する講演をいただいたことから交流が始まった。その関係を継続させて、2008年からエコキャンパス研究会の学生たちが、キリバスの実態を視察することになった。
 沈みゆく島々の状況をただ見るだけではなく、国際交流学部として授業で学んだことをここで実践するためには何をすべきなのか。被害を受けた道路の修理や護岸工事は、女子学生には不可能であるが、彼女たちの目線で、住民の様子を調査することからスタートした。

再生可能エネルギー「おひさまクッキング」支援プロジェクト

 キリバスでは高潮被害も深刻であるものの、エネルギー問題が市民生活に大きな影響を与えていることに気づかされた。島国なので、灯油やプロパンガスを輸入に頼っており、価格が日本とほぼ同じため、現地の経済状況からすると、燃料費の家計への負担はかなり大きい。薪も使っているが、塩害と干ばつによって木の発育が悪く、いくらでも手に入るものとはいえない。調理については、パンの実やタロイモを「煮る、蒸す」、米を鍋で「炊く」が一般的であり、大家族が多いので一度にたくさん作ることがわかった。
 そこで、さんさんと降りそそぐ太陽の光をうまく利用して、「煮る、蒸す、炊く」の調理法にも適している「ソーラー・クッカー(太陽熱調理器)」(※下記コラム「ソーラー・クッカーとは?」参照)に着目し、問題解決にアプローチすることにした。中国やインドでもソーラー・クッカーは数百万台が普及しているが、南太平洋諸国ではこのプロジェクトが初めてであった。
 ただし、ソーラー・クッカーを人々が安く作るためには、現地で調達できる材料・道具を使って、技術レベルに合った設計でなければ、自立的な発展は期待できない。キリバスには、なんでもそろうホームセンターもない。日本では足利工業大学、現地では技術専門学校の先生と一緒に、オリジナルのソーラー・クッカーの開発を進めた。試行錯誤の連続だった。
 フェリスの学生たちは英語が堪能なため、現地のスタッフと楽しく会話しながら、ともに汗を流した。また、主婦を対象にデモンストレーションを開いたところ、「太陽なんて暑くていやだったけれど、太陽の利用法とありがたさを教えてもらったわ」とのコメントが寄せられた。また、地元の新聞でも「燃料費が高騰するなか、家計を助ける期待がかかる」と紹介された。

学生の成長とFor Others

 エコキャンパス研究会が2006年から始めたこの活動は、2012年度から国際交流学部の授業「海外環境フィールド実習」として展開されることになった。一方、エコキャンパス研究会は、キリバスにおけるもうひとつの環境問題である「水不足」を軽減するために、校章の入ったマイボトルを大学内で売り、収益金や募金で、雨水タンクを小学校に寄付する活動を続けている。
 キリバスでの体験のすべては、現地の人々の現状に耳を傾け、ともに解決策を考える、そして発展途上国の人たちによって取り組める方法を提案する、といった国際支援のあり方を学ぶ上で学生たちに大きな成長をもたらした。他者のために、惜しみなく自分の能力を差し出していく姿勢は、フェリス女学院の建学の精神であるキリスト教信仰の根底にある考え方であろう。フェリスならでは、女性ならではの視点を生かし、地球温暖化の問題に対して日本人にもより関心を持ってもらえるよう、学生とともに研究を継続させていきたいと思っている。

フェリス女学院大学と南太平洋諸国とのあゆみ

2006年12月 国際環境シンポジウムを開催。キリバスの現状を知る。
2008年 2月 初めてのキリバス渡航。ソーラー・クッカーを持って行き、デモンストレーションを実施。
2008年 9月 ツバルでもソーラー・クッカーのデモンストレーションを開催。
2009年 2月 キリバス公共事業省とともに、ソーラー・クッカー(箱型)の作り方のワークショップを開催。
2009年 9月 キリバスのカトリック教会の女性グループとともにソーラー・クッカー(パラボラ型)の製作・調理実験。
2010年 2月 フィジーおよびキリバスでも、パラボラ型の作り方のワークショップを開催。
2011年 2月 ツバルでパラボラ型の製作ワークショップを開催。マングローブ植林による護岸を体験。
2013年 2月 国際交流学部専門科目「海外環境フィールド実習」として開講(予定)。

キリバス共和国とは?

南太平洋の赤道付近、ハワイとオーストラリアのブリスベンのほぼ中間に位置し、3つの島嶼群、33のサンゴ礁の島からなる常夏の国。海抜は平均2メートルと低く、地球温暖化による海面上昇の影響を受けやすい。近年は頻発する干ばつで雨水の集水量が減少している上、海面上昇による井戸水への海水浸透により、WHO基準の1日1人50リットルの給水量に達していない。人口は約113,000人(2009年7月推計)。経済状況は、世界で最も貧しい国のひとつであり、天然資源も乏しく、産業は漁業とココヤシ加工品生産、観光。機械類、燃料は輸入に依存し貿易赤字を抱えている。

民家のすぐそばでも海岸浸食により木々が倒れている様子が見受けられます。

ソーラー・クッカーとは?

再生可能エネルギーの一手段として、レンズや反射鏡で太陽光を1点に集め、黒く塗った鍋に熱を当て調理するもの。箱型、パラボラ型、パネル型の形状があり、素材もアルミやステンレス製で商品化されたものから、段ボールにアルミ箔を貼ったタイプやてんぷらガードを利用した手作りのものまで、さまざまである(タイトル横の写真参照)。

現地からの手紙

I would like to convey my sincere thanks to Ferris University for introducing this new method on using the solar oven. It is very important for us, Kiribati people, because it reduces the expense on kerosene and gas for cooking, and also because we are rich in sunshine. Thank you for coming and I wish you all the best.
Margaret Naibuuaki(Teaoraereke Village在住)

ソーラー・クッカーの組み立て方法と使用方法を実演しました。

ソーラー・クッカーでの調理実践に、現地の子どもたちも興味津々の様子。

佐藤 輝(さとう あきら)

佐藤 輝(さとう あきら)
国際交流学部 教授
エコキャンパス研究会 顧問
1971年生まれ。東京農工大学連合農学研究科博士課程修了。農学博士。通商産業省生命工学工業技術研究所をはじめ複数の研究機関での研究員を経て、2004年4月より本学国際交流学部 准教授、現在教授。専門分野は、再生可能エネルギーの普及対策、環境教育。日本環境学会編集部長、私立大学環境保全協議会理事なども務める。

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