3月7日(木)の午後、山手キャンパス(大学)10号館設計者であるアントニン・レーモンド(1888-1976)の孫であるシャーロット・レーモンド氏(写真家)が来訪し、10号館の内外を見学されました。
今回シャーロット氏とともにレーモンド設計建築物をはじめとする建築史研究者であるケン・タダシ・オオシマ ワシントン大学教授が来訪し、10号館の内外について、これまで知られていなかった興味深いお話しをうかがうことができました。
オオシマ氏の説明では、内部は、シンプルかつ細部に至るまで機能性を重視した建物でありながら、4室の居間には色違いの枠の暖炉、曲線形の出窓や角を丸くカットした棚、カラータイルを使った装飾が施され、寝室にはウォークインクローゼットも配置されています。おそらくは、タイルや曲線状の棚のしつらえは、レーモンド氏の妻でデザイナーのノエミ・レーモンド(1889-1980)のデザインによるものではないかとのことでした。
また、建物アプローチの庭側縁石に使われているタイルはスクラッチタイルと呼ばれ、昭和初期に流行したもので、帝国ホテルなどではさらに意匠を重視した模様で使用されているとのこと。レーモンド建築ではよく使われていた建築資材であるそうです。
見学当日は、時折冷たい雨の降りしきる中、フォトグラファーであるシャーロット氏は祖父母が建てた当時の姿が残る建物の写真を熱心にカメラに収めていました。そして、今後よりよい形でこの建物を残していってほしいとのメッセージがありました。
関東大震災の後に建てられ、既に90年以上の時を刻んでいるにもかかわらず、現代に通じる洗練されたデザイン、堅ろうかつ機能性に富んだ建物であることが改めて分かり、アントニン・レーモンド作品の歴史を未来に伝えていくことの重要性を感じたひとときとなりました。