フェリスの伝統と革新

Society5.0においても活躍できる人になるために

 Society5.0では、どのような力が求められているのか。
 学問分野に関わらず、学生が身に付けるべき力について、渡邉 弘己先生からフェリス生への期待とメッセージをお届けいたします。

■大学生に求められる基礎的な力
 日本は現在、これから目指すべき社会としてSociety5.0(超スマート社会)を提唱しています。この社会は日本がこれまで歩んできた狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く社会であり、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合化させたシステムにより、経済的発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会として定義されています。この社会では、世の中の課題を解決するために、多種多様な情報を集め、集めた情報を人工知能(AI)に解析をさせ、その解析結果をフィードバックすることで、これまで無かった新たな価値を得ることができます。このような社会において活躍するためには文系理系を問わず全ての人々が「数理・データサイエンス・AI」に関する基礎的な力を育む必要があるとされています。大学生にとって、この基礎的な力は内閣府においてリテラシーレベルとして定められており、2023年度を目途に内容の見直しが行われる予定です。(図1)

■AI技術の急速な進展
 AI技術の進歩を身近に感じことができる例として、2022年11月にOpenAIが公開したChatGPTが挙げられます。ChatGPTとは大規模言語モデル(LLM)とよばれる自然言語処理モデルの一つで、ネット上の大量の文章などから質の高いデータのみを選別した文章と、人間が使用した際のフィードバックを活用して学習することで、自然な文章を使ったチャットができるAIです。このAIを使用すると、単純な会話ができるだけではなく、長文の作成や要約、普段私たちが使用している言葉(自然言語)だけでプログラミングができるなど、本当に多くのことが可能になります。さらに、この原稿の執筆時(2023年3月22日現在)には、より精度が向上し、画像や写真のデータを読み込んで文章作成ができるGPT-4が公開され、Microsoftも従来のOffice365にChatGPTベースのAI機能を搭載したMicrosoft365Copilotを今後数か月以内に製品に導入することを発表しています。この機能を利用すれば、自分のやりたいことを入力するだけで、それに沿ったプレゼンテーション用のスライドを自動的に作成してくれますし、Excelにまとめたデータに対しても自動的にAIがデータ分析を実施し、結果を出力してくれます。ChatGPTは他にも様々なプラグイン機能を実装することにより、多種多様な機能が拡張される予定です。
 このようにAI技術が急速に進展している社会でもフェリス生が活躍するためには「情報の真偽を判断できる批判的思考力」はとても大切な力であり、「AIを活用して新たな価値を生み出す発想力」が今後はさらに必要な力になるのではないかと考えます。

■情報の真偽を判断できる批判的思考力
 例えばChatGPTに「フェリス女学院大学って何?」と尋ねると、―東京都目黒区にキャンパスを構えている、看護学部や人間関係学部などの学部が設置されている― 等の誤った回答が返ってきます。(図2)このように自分が知っている内容であれば誤りに気づくことは容易ですが、全く知らない分野について聞いた場合は間違いに気づくのは容易ではありません。もちろん、このような単純な内容の真偽については、これからさらにAIが学習を繰り返すことでより正確な情報が出力されるようにはなるでしょう。ただ、学習データがネット上の情報や、人間のフィードバックである以上、多くの人が誤って理解している内容や、そもそも専門家が少ない分野の内容は誤った内容を学習してしまうため、情報の正確度は改善されないだろうと思います。さらに、AIの学習が進めば進むほど、AIの出力内容がより巧妙になり、誤りの発見が困難になることが予想されます。そのため、出力結果を鵜呑みにせず、批判的に出力結果を見る力はこれまで以上に重要になってくるのではないかと考えます。批判的にものごとを捉えるためには、幅広い教養、基礎知識が重要になるため、これらについて学習をした人としない人の間の差がますます広がってしまうことが予想できます。

■AIを活用して新たな価値を生み出す発想力
 まず、単純な知識を得て一般的な考察を与える、文章の作成や要約ができる、プログラミングができる、オフィスソフト等のアプリケーションソフトが使えるというだけでは、活躍できない社会になりつつあります(なっています)。計算やデータ分析についても、本来は言語処理をするAIにとっては苦手な分野ですが、他のソフトとプラグインをすることにより、かなりの精度で実施することができるようになるでしょう。そういう意味では、これらの処理について学習しただけの人は今後の社会で苦労するのかもしれません。ただ、人文・社会科学系の学生が多いフェリス生にとって、これはチャンスともとれるのではないでしょうか。人文・社会科学系の学生はプログラミングやデータ分析に苦手意識を持っている学生が多いと思いますが、これからはこれらの大部分をAIに任せることができます(全くする必要が無いという意味ではありませんが)。これにより、人文・社会科学系の学生にとって厚い障壁となっていたプログラミングをしなければアプリを作れないという問題が軽減され、今まであまり活かすことのできなかった人文・社会科学系の考え方や発想をアプリ等のモノづくりに活かしやすくなり、フェリス生がこの分野で活躍できる可能性が増すのではないかと考えます。この環境を十二分に活かすためには、今まで無かったアイデアを生み出すことのできる豊かな発想力が必要であり、これはフェリス生が今後の学生生活で十分磨くことのできる能力であると考えます。この発想力というのはAIによって脅かされることはありません。また、AI技術に積極的に触れ、いろいろ試してみることでアイデアを形にすることを楽しみ、AIに慣れてもらえると良いのではないかと思います。(図3)

■フェリス生が活躍するために
 人文・社会科学系の学生が多いフェリス生にとって、AI技術は分からない部分が多く、怖いものとして捉えがちかもしれません。しかし、それに惑わされずAI技術を味方につけるために、データサイエンスも含めた基礎的な力や幅広い教養、批判的な思考力、学内外での多種多様な経験、豊かな発想力などを磨き、AIに慣れ親しむことで、これからのSociety5.0でも活躍できる人になってほしいと願っています。

図1 「数理・データサイエンス・AI」の基礎的な力(リテラシーレベル)の概要(内閣府Webページより引用)

図2 ChatGPTの例 「問:フェリス女学院大学って何?」

図3 値の大きいスキルが必要な職業はLLM(ChatGPT)の影響を受けやすく、値の小さいスキルが必要な職業は影響を受けにくい(Tyna Eloundou et al. GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact Potential of Large Language Models. arXiv preprint arXiv: 2303.10130, 2023)
※LLM(ChatGPT)により代替されにくいとされる能力を、赤枠で囲んだ。

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