フェリスの伝統と革新

進化する図書館の役割~学修支援の場、共有地として~
進化する図書館の役割~学修支援の場、共有地として~

 図書館は、静かに一人で調べ物をしたり、本好きな人が通う場所・・・という従来のイメージは変化してきています。
 大学の島村輝先生と中高の岡田美穂先生から、新たな学修支援の場である図書館の役割について、お話を伺いました。
■図書館へのアクセス
岡田:中高図書館の場合、生徒が図書館を利用するのは主に「図書館で実施される授業」「昼休み」「放課後」の時間です。中高生は図書館には宿題・レポート作成のために使う本や、自分の読書用の本を借りるために来館します。生徒だけでなく教職員も利用する「生徒と教職員のための図書館」です。
島村:大学では、学科ごとに違いがあります。卒論やゼミの準備で図書館の現物(本)を使う必要に迫られるケース。古典などはデジタル化されているとは限りません。統計や実地調査が多い学科は、授業に図書館利用が必須でない場合もあります。卒論、課題の準備が切実になったときに来館します。
岡田:図書館を利用した授業も多く、毎日どこかの教科やクラスが図書館を利用しています。中高図書館は上下階の2フロアあり、それぞれ1クラスずつ利用することができます。各フロアにスクリーンとプロジェクターが設置されており、授業時にはグループ学習やプレゼンテーション等で使用しています。教室にもこれらの機器はありますが、教室に資料を持ち込んで授業をするよりも、図書館授業だと必要に応じて自由に資料が利用できるので学習効率が高まります。また、今年から生徒は自宅から蔵書検索と新聞データベースへのアクセスが可能になりました。
島村:学外からアクセスできることは、きわめて便利ですね。フェリスの図書館を通じて、国立国会図書館のデジタル化資料サービスを受けることもできます。主に大学院生、研究者、教員が使うケースが多いですが、そういうアクセスのルートが作られていることも図書館に足を運ぶモチベーションになっていると思います。 

■アイディアの創出を促す空間
岡田:フェリスの大学図書館はとても綺麗で居心地がいいですね。8月に中高の生徒と訪問しました(注1)。図書委員が図書館の施設見学を、文芸部員が図書館資料とラーニングコモンズエリアを利用しました。机や椅子のデザインも色々なものがあって、目的や用途に合わせて使い分けられるところがいいですね。大学図書館では蓋つきの飲み物が持ち込めるので、お茶を飲みながらリラックスした雰囲気で話し合ったり、テントのような「としょキャンプ」や畳の「ENGAWA」の席を利用してみたり、中高図書館とは違った空間を満喫しました。参加した生徒の多くが、ぜひまた来たいと「貸出カード」を発行してもらいました。
島村:それは嬉しいですね。1階正面のエントランスを入ってすぐのラウンジには、山手から移設したベーゼンドルファー(グランドピアノ)があり、定期的に演奏会を企画しています(注2)。広くスペースを取った1人掛けソファにはPC用電源もあり、2階席では富士山が見えます。よく利用されています。

■学生・生徒による選書
岡田:中高の生徒図書委員会は、各クラスから選出される「クラスの係」と、有志が企画や運営をする「運営部」で構成されています。選書プロジェクトでは「生徒が読みたい本を生徒が選ぶ」というコンセプトで、図書委員が他の人のために本を選びます。選書したお薦め本のPOPを作成したり、新入生の歓迎展示や本のサマーバッグを用意しましたが、生徒が選書して展示する本は人気ですぐに借りられていきます。
島村:読書運動プロジェクトによるラッキーバッグでは、学生がPOPとラッピングを担当しています(注3)。これを手がかりに、中身の見えない状態で気になる袋を選ぶという企画です。今夏は完貸御礼でした。
岡田:大学図書館の見学時に、大学のラッキーバッグをみつけた生徒が「サマーバッグみたい!」と言っていました。展示の仕方や包み方などに工夫があって、新たなアイディアにつながる発見があったと思います。

■探さなくても視野に入るレイアウト
―――先生方が考える選書には、どのような前提、方針があるでしょうか。
岡田:中高の選書基準は大きく2つあります。「教科学習・課外活動を支えるもの」と「趣味・教養を高めるもの」です。図書委員会の教職員と教科教員による選書のほかに、生徒も購入希望図書をリクエストできる制度があります。複数の立場や視点による選書の仕組みがあることで、特定の分野にのみ偏ることなく、バランスの取れた蔵書が構築できると思います。
島村:現代作家は学生から教えてもらう部分もあります。ジェンダー、SDGsなどは大学のカリキュラムポリシーに近いので選書の中心になります。そのほか「鎌倉殿の13人」「フェリス百人一首」など企画のテーマと結びつけ、学生がアプローチしやすい特集(注4)を組むために計画的に収集します。人文科学の良質な入門書が視野に入るように展示するのも図書館の役割です。専門性の強い本はスタッフだけで選ぶのは難しいので教員が担当しています。
岡田:中高の生徒は本好きで勉強熱心な生徒が多いです。多くの生徒が課題や学習用の本をたくさん借りていきますが、忙しくて、楽しむための本を借りる時間がない生徒もいるようです。探さなくても、生徒の目にとまるように展示を工夫して借りやすくなるように心がけています。
島村:大学では、1年前期に全員が図書館ツアーで所蔵資料、データベース利用の基礎を学習します。紙メディアとの接触が少ない学生に対し、必要な情報に行き当たるにはどうしたらいいのか。いわゆる「ググる」だけではない方法や、ネット情報の危険性を学んでもらいます。蔵書の配置も工夫し、雑誌は50音順から分野別に変え、案内掲示はピクトグラムで視認性を高めています。図書館は敷居が高いと感じる学生もいるので、最初は本に囲まれた空間に気軽に出入りしてもらうことからと思っています。
―――授業に図書館ガイダンスを取り入れることによって、学生の意識は変わりましたか。
島村:大きく変わります。出どころの確かな情報にアクセスするためには、信頼できる資料に辿り着かないといけない。その方法がわかるという経験をすることで、図書館が身近になるのです。

―――ファスト映画など、効率的にあらすじを把握しようとする風潮についてはいかがでしょうか。
岡田:簡略化したコンテンツを消費する問題について耳にしますが、本当の意味で記憶や心に残るような本の読み方、映画の鑑賞をしてほしいですね。ファスト映画や簡略化は著作権の問題にも関わってきます。安全で責任ある情報利用者になるよう、情報リテラシーやデジタルシティズンシップ教育が必要だと思います。中学生には図書館の利用指導で参考文献の書き方や引用の仕方を通して、著作権を守ることの重要性を指導しています。高校生は、データベースや電子ジャーナル、機関リポジトリを利用する機会も増えてくるので、情報の信頼性について、クリティカルシンキングについて説明しています。
島村:検索上位にあるものも間違っているかもしれない。ファクトでないと有害な情報を広めてしまう。事実でも黙って使うのは著作権の侵害になる。指導を重ね、良質な情報がどこにあるのかを身に付けてもらいます。
例えば、ロシアによる軍事侵攻後すぐウクライナ特集を開始しました。軍事力で制圧しようとする側に非があるのはもちろんですが、人文系の大学生としては、この事態に至った歴史的背景、各々の主張を理解してほしい。一方的な立場にならないよう周辺領域まで学べる展示としています。

■今後の展望
岡田:図書館の本や資料は皆で大切に利用する共有財産ですが、在学中は「私の図書館」であり「私の本棚」だと思って毎日存分に使ってほしいと思います。
島村:学生にとって、図書館に来ると常に発見がある場所にしたい。2023年度から開始する副専攻「デザインと表現」に合わせ、美術系の大学図書館と連携し、相互に補完していくことも構想しています。

注1 中高図書委員会運営部が大学図書館を見学

注2 ラーニングコモンズ プロムナードコンサート―ことばと結ぶ音楽―
(音楽芸術学科ゼミ生による企画・運営。2022年6月〜2023年1月まで全6回開催予定)

注3 読書体験の魅力を共有し、新たな本に出会う機会を創出する読書運動プロジェクト

注4 2020年度以降企画展示のうち、貸出数が多かったテーマの例
・Stop!Harassment(2020年9月29日〜2021年3月31日)
・自分のアタマで考える。自由になるためのライフスキルリベラルアーツ(2021年4月6日〜9月30日)
・誰もが自分らしく生きるために(保健室との合同企画。2022年4月1日〜9月13日)

中高生徒図書委員が大学のラッキーバッグを見学

中高生徒図書委員が作成したサマーバッグ

大学フレンドリーグループHalo-Halo Club主催
参院選特別展示(2022年7月4日~11日)「誰もが自分らしく生きるために投票行こ!」

ページトップへ戻る

© FERRIS JOGAKUIN All Right Reserved