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第7回 フェリスに学び新しい地平を拓く

 今回はフェリス女学院大学の卒業生であるテレビ東京報道局の大江麻理子さんをお迎えしました。アナウンサーとして活躍された後、ニューヨーク支局への赴任を経て、現在は経済ニュース番組のメーンキャスターを務められている大江さんに、フェリスに学び、新しい地平を拓いたご経験を語っていただきました。(2014年12月)

目の前の霧が晴れた賛美歌「心を高くあげよ!」

大塩 大江さんは福岡県に生まれ育ち、高校卒業後にフェリス女学院大学に入学されたそうですね。九州の大学ではなく、九州以外の大学で勉強しようとはじめから思っていたのですか。

大江 私の母が、「数年間でも実家を離れ、遠いところで一人暮らしをする経験を積んだ方がいい」という考えだったのです。私もその考えに倣いました。

大塩 受験生当時、どんなことを大学で学びたい、もしくは大学を卒業して実現したいと考えていらっしゃったのでしょう。

大江 実は具体的なものが見つからず、とても悩み、焦っておりました。漠然と「大学では文学を学びたい」「中国にまつわる何かを学びたい」という希望はあったのですが、その先に未来や職業を思い描くことができなかったのです。でも、高校生くらいですと人生経験も少ないですし、私に限らず「自分がよく分からない」という人がほとんどではないでしょうか。

大塩 そうですね。思い返せば、私自身もそうでした。逆に言えば、大学は若い人の未来や進路を見出していく場所でもあるとも考えられますね。

大江 ええ。大学に入り、履修する講義科目を選ぶなかで、勉強をチョイスできる楽しさに気づきました。学びたいことを自ら掘り下げられる喜びを知ると同時に、それまでは与えられた勉強だったことに気付かされました。
 でも、入学当初は不安を抱えていました。実は第1志望校が他にありましたし、これまで共学の学校に通ってきた自分が女子大という環境に馴染めるのかどうか。しかも皆が「フェリスはお嬢様大学だ」と囁く中、九州の田舎育ちの私が……と。

大塩 第1志望以外の大学に入学せざるをえない例は実際少なくありません。しかし、入学後に、「第1志望ではないけれど、この学校が自分に与えられた学びの場所だ」と納得できるようなきっかけが何かしらあると思うのですが、大江さんの場合はいかがでしたか。

大江 入学式で、皆で賛美歌を歌ったのです。「心を高くあげよ!」という賛美歌です。「霧のようなうれいも、やみのような恐れも、みなうしろに投げすて、こころを高くあげよう。」この1節を聞いた瞬間、憑き物が落ちたように大変清々しい、幸せな気持ちになったのです。「そうだ、心を高くあげればいいのだ」と。「今、私が悶々としているのは私自身の問題であって、どの環境にいても自分が楽しめるかどうかによって、その先の人生が変わるのだ」と。

大塩 人によってはこの歌詞を、聞き流すかもしれません。大江さんはこの賛美歌の核心を身体全体で受け止めることができたのでしょうね。

大江 ええ。その時の私は、一人暮らしを始めて、知り合いが誰1人いない環境で生きていかねばならなかった。そしてこの先の人生が見えない、スタートなのにその先が全然分からない……。まさに「霧のようなうれい」と「やみのような恐れ」のまっただなかだったのです。この歌詞を見た瞬間に、心がぎゅっとつかまれました。

大塩 フェリスの建学の精神は、「キリスト教の信仰に基づく女子教育」です。フェリスに来たからこそ、この賛美歌に巡り会えたということですね。

大江 はい。この瞬間に、「どんな状況であっても、自分次第で状況というものは変わっていく」ということをパッと理解したのです。在学中にも大変な局面は何回かありましたし、社会人になってからもいろいろな番組を担当したり、担当番組を全部外れてニューヨークに赴任することになったり、帰国してまた大きな番組を担当することになったりとさまざまな局面がありましたが、その度に「決断」ができたのは、この賛美歌のおかげだと思っています。

たくましいのに優雅なフェリス生

大塩 フェリス生として4年間、女子だけの環境で学び、生活をなさった意義はどうお感じになっていますか。

大江 いろいろな女性の生き方やポリシーを間近で見られたのは非常に意義あることでした。同性と濃密な時間を共有し、女性としての多様な生き方に触れ、それぞれの良さに学び、触発され、我が身を正して。
 思い出すのは、山手の校舎に通っていたときのことです。あの急な坂道を皆汗だくになりながら上って登校していたのですが、それが白い日傘を差しているのです。美しく、またフェリスらしい姿だと感じました。

大塩 今「フェリスらしい」とおっしゃいましたが、大江さんの思う「フェリスらしさ」とはどんなものなのでしょうか。

大江 「たくましいのに、優雅」と言うのでしょうか。白い日傘を差しながら懸命に急坂を上る姿は一見とても優雅であるように、非常にバイタリティがあるのにガツガツしているわけでもなく、ぶつかることなくうまく折衝しながら、いろいろなことを可能にしていく人が多かったように思います。どんな環境においても自分を客観視し、パニックに陥らず楽しむ姿勢、そこが「フェリスらしさ」ではないでしょうか。
 たとえば日本文学科(※)の友人の1人はタイがとても好きで、日本語とタイ語の共通点を研究するため自らタイの留学先を探し、そこの大学の取得単位をフェリスの単位として認めてもらえるよう大学に掛け合ったのです。無事大学が認めてくださったので留学し、今はタイで3児の母になっています。
 学生たち自身が意欲を持っているのはもちろんですが、フェリスもまたその思いを汲み、柔軟に対応することで伸ばしてくださったのですね。自分の思いを学校に相談すれば、その先の扉を開けるための力を貸していただける。なんて素敵な学校なのだろうと思いました。少人数制ならではの良さでもあるのでしょうが、これはフェリスの素晴らしさだと感じています。
 私の場合ですと、賛美歌「心を高くあげよ!」と出会ってからは、「目標がないといって悩んでも仕方がない、なりたいと思ったときに何にでもなれるよう引き出しを増やしておこう」という考えに変わりました。中国に興味がありましたので、中国語を本格的に学びたいと思い、大学にお願いしてスタンダード・コースからインテンシブ・コースに編入させていただいたのです。その後中国の清華大学に夏期研修にも行くことができました。

大塩 そうでしたか。フェリスは100年以上の歴史ある学校です。その長い伝統の中に、大江さんや大江さんのお友達、そして学生1人ひとりの持つ力や思いを引き出し、存分に発揮させるという校風が培われてきたのかもしれませんね。

大江 きっとそうだと思います。また、私は人と接するときに性差をあまり意識しないのですが、これも女子大で過ごしたからかもしれません。1人ひとりの違いは、性差ではなく個性の差であると考えるようになりました。

大塩 いまの日本社会では、男性と女性がいれば、それぞれの場面で、男性としての役割と身の振る舞い、女性としての役割と身の振る舞いをどうしても意識してしまうことがあります。そうすると本来の、人間としての力とでも言うべきものが発揮しにくくなる場合もあるのではないかと思います。「女子だけの教育」においては、そういう枠組みが取り払われますから、本来の女性の力、人間としての力を見出すことができる。また、私たち教育者もそれを引き出すことができるのではないか。4年間の学院長としてのフェリスにおける生活を通して、私は女子だけの教育の意義をそのように受け止めるようになりました。

フェリスで積み重ねた成功体験を礎に社会へ

大塩 アナウンサーの道を志したのは、何がきっかけだったのでしょう。

大江 夏期研修で中国に滞在していたとき、北朝鮮が日本海へテポドン(弾道ミサイル)を発射する事件があったのですが、私は全くそれを知らなかったのです。中国では報道されていなかったのです。たまたま日本の家族に電話をした友人からその話を聞いて、非常に驚きました。
 同じ事件であっても、国によって報道のされ方が変わる。新鮮な驚きでした。考えてみたら日本でも、新聞によって書かれ方が違うこともあります。それでは誰がどんな判断をして、ニュースを選別し、報じているのだろうか。すなわち、ニュースはどうやって作られているのだろうか。その裏側を見てみたい……。「報道の現場を知りたい」という思いでテレビ局を志望しました。
 アナウンサーを志す場合、アナウンス学校に通う人も多いのですが、私は大学の就職課で充分に練習や指導をしていただいたので、その必要はありませんでした。フェリスは自分が相談すれば、本当に真摯に応えてくれる学校です。在学中はいろいろな方に支えられ、守られておりました。
 振り返ればフェリスでの4年間は、そうした経験の積み重ねでした。自分で何か働きかけをすれば、大学が必ず応えてくれるというのは、学生にとって成功体験となり、自信となります。ですから社会に踏みだしても、少々のことではくじけないのです。「自分が働きかければ、何か動くかもしれない、変わるかもしれない」と信じることができるのですから。

大塩 フェリスの教職員は学生1人ひとりを大切に見守っています。

大江 フェリスでの4年間があったから今の自分があると、心から思っているのです。ですから、学生1人ひとりに丁寧に接してくださる姿勢は、いつまでも変わらないでいただきたいと思います。

大塩 教職員自身、特段意識せずにおこなってきたことかもしれませんが、学生や卒業生がそのように受け止めていることを、私たち教職員は意識したいものです。なぜなら、自分たちのはたらきが学生に与える影響を意識することによって、教職員のキャンパスにおける生活は確信に満ち、仕事の喜びを日々実感できるようになるからです。そのようなプロセスは、やがてはフェリスの校風醸成の力へと転化します。

すべての瞬間がFor Othersを体現するチャンス

大塩 フェリスの教育理念For Othersについて語っていただけますか。

大江 For Othersは、テレビ東京に入社してからも私の支えとなっています。番組づくりにおいて、「この仕事が誰かの役に立つかもしれない、誰かの人生を変えるきっかけになるかもしれない」、そういう視点をもつことはとても大切なのです。入社時点からそうした姿勢で仕事に臨むことができたのは非常に良かったと思います。
 このことで印象に残っている出来事があります。2011年3月11日の東日本大震災後、お笑いコンビの「さまぁ~ず」さんと一緒に当時出演していた「モヤモヤさまぁ〜ず2」というバラエティ番組宛てに、大勢の視聴者の方から感謝のお言葉が届いたのです。「震災で傷つき、明日が見えないときに、ひとまず笑って元気になり、前向きな気持ちになれた」「救われました、ありがとう」と……。この番組は、気楽に見て笑っていただくようなものだったので、「救われた」というお言葉に驚くと同時に、どんな形で誰かの役に立てるか分からないものだと実感したのです。人の目に触れる仕事をしていると、すべての瞬間がFor Othersのチャンスなのだと強く感じた経験でした。

大塩 マタイによる福音書7章で、イエス様は、「あなたがたのだれが、パンを欲しがる自分の子供に、石を与えるだろうか。魚を欲しがるのに、蛇を与えるだろうか。確かにあなたがたは神様に背くような生活をしているけれども、自分の子供には良い物を与えようとする。そうであるならなおさらのこと、あなたがたの父である神様は、求めるあなたがたには良い物をくださるにちがいない。だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人のために(For Others)しなさい」と語ります。慈愛に満ちた神様に願ってしてもらうように、あなたも人のためにしなさいということです。
 大江さんのおっしゃったように、現在の自分があることに感謝して、自分と関わりのあるすべての人の立場を思いやるというのは、まさにFor Othersの体現ですね。

大江 現在は「WBS(ワールドビジネスサテライト、月〜金曜 夜11時から放送中)」という経済ニュース番組のメーンキャスターを務めております。毎日生放送でお送りしているのですが、喋ったことがその瞬間に全国に広がりますので、責任重大でとても緊張感のある仕事です。テレビの現場は、華やかに見えても実態は過酷なものです。そんな中で何が支えになっているかというと、やはりFor Othersなのです。
 日々生まれるニュースを記者が取材に行き、カメラマンと音声スタッフが収録し、編集、CG、テロップ、それぞれ担当者の手が入ってようやく出来上がった場面を、最後に「どうぞ」と視聴者へ差し出すのが私の役割です。皆さんの努力を無駄にせず、いかに良さを引き出し、提示するか。それによって見た人たちはどう感じるのか。それを常に考えていますし、こうして情報をお伝えすることで、誰かが何かしらの行動を起こすきっかけを作れるかもしれないのだと思うと、大きなやりがいを感じます。現代では、インターネットで即座に見ている方の反応が得られるという手応えもありますしね。やはり主役は「私ではない誰か」なのです。

大塩 大江さんが大学4年間で身につけたFor Othersと、卒業してから現在に至るまでのFor Othersは、何も変わらないということですね。

大江 はい。For Othersと「心を高くあげよ!」、この2つが私にとって、新たな地平を拓く糧となりました。そして私の礎となるフェリスでの4年間の最初の瞬間に、「心を高くあげよ!」の1節と出会えたのは、非常に大きな意味があったと思います。

大塩 今のお話に、「キリスト教の信仰に基づく女子教育」を建学の精神とし、「For Others」を教育理念とするフェリス女学院の社会的な存在意義がすべて集約されているように思いました。
 私は常々、PCのデスクトップのアイコンのように、「これがフェリスだ」と認識してもらえるようなアイコンを社会に示したいと考えています。しかしそれがどういうものかまだ掴みきれていないのです。大江さんのお考えを聞かせていただけますか。

大江 社会へ向けてのアイコンとなりうるのは、やはりそれぞれの道で活躍されている卒業生と、現在通われている学生さん1人ひとりではないでしょうか。私もフェリスのアイコンの1つとなれるように頑張ってまいります。

大塩 フェリス女学院も、卒業生に対していろいろなかたちで、結びつきを保ち、いつまでも支えていけるような存在でありたいと願っています。

学院長 大塩 武(おおしお たけし)

学院長 大塩 武(おおしお たけし)
1943年生まれ。早稲田大学商学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科博士課程最終単位取得。商学博士(早稲田大学)。明治学院大学では、情報センター長、教務部長、入試センター長、経済学部長、学長を歴任。著書に『日窒コンツェルンの研究』(日本経済評論社)、その他多数。

テレビ東京報道局 大江 麻理子(おおえ まりこ)

テレビ東京報道局
大江 麻理子
(おおえ まりこ)
フェリス女学院大学文学部日本文学科卒業。テレビ東京報道局所属。福岡県出身。2001年にアナウンサーとして入社。同年から夜11時からの経済ニュース番組「WBS(ワールドビジネスサテライト)」に出演し、報道以外でも「出没!アド街ック天国」や「モヤモヤさまぁ~ず2」で人気者に。13年にニューヨーク支局に赴任、14年春から「WBS」のメーンキャスターに。趣味は読書。好きな言葉は「望みは空より高くあれ」。

※ 日本文学科は、2014年4月に日本語日本文学科に名称変更。

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